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GKはゴールのすべては守れない。ドイツ式技術理論と日本人の可能性


2019年02月08日

「GK大国ドイツから見えた日本人GK育成の可能性」【後編】 
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「マヌエル・ノイアー(バイエルン)ではなく、マルク=アンドレ・テア・シュテーゲン(バルセロナ)なのです」

 ドイツで研修中の松本拓也氏(柏レイソルアカデミーGKコーチ)はGKの育成モデルがドイツ代表の正GKではなく、意外にも控えのテア・シュテーゲンであると話す。


ドイツ代表GKのテア・シュテーゲンは、現在バルセロナの守護神

「ノイアーは驚異的な身体能力の持ち主ですので、育成のロールモデルにはなりにくい存在です。また、昨季のケガの影響からプレーの波もあり安定感に欠ける面があります。一方のテア・シュテーゲンはドイツ国内では『育てられるタイプのGK』と考えられています。彼の一番の強みは的確な判断で、ドイツのGK理論に沿ったプレーをしています」

 実際、松本氏が所属するカイザースラウテルンでも「われわれの考える正しいプレーとは」という理論を紹介する際、テア・シュテーゲンのプレー映像を用いることが多く、それはドイツサッカー協会のGK指導理論においても同様だという。

 しかし、松本氏の解釈では「そうした理論が先にあったからテア・シュテーゲンが育ったわけではなく、テア・シュテーゲンのようなGKの登場によって理論がより深まり、整理され、現在は理論とテア・シュテーゲンが共にブラッシュアップされている」状況とのこと。

 ドイツにおけるGK理論で、特徴的で日本にないものは「ゴールのすべては守れない」という前提が、理論と技術指導にあることだ。その前提、ある意味での割り切りを設定することで「ここは仕方ない」という「捨てゾーン」と「ここは絶対に守らなければいけない」という「責任ゾーン」が明確になる。

 その理論のひとつの例として1対1の対応が距離によって明確に区分けされている。相手との間合いを詰める際、「0〜3メートル」ならば、前傾姿勢で足を曲げ、面を作ってブロック対応。「3〜5メートル」はGKにとって対応が難しい距離となるためそこに持ち込まない。「3メートル以下」に距離を詰められないなら、下がって「5メートル以上」距離を”稼ぐ”対応をする。距離を稼ぐ場合は、際どいサイドネットへのシュートは「捨てゾーン」、それ以外のゾーン(へのシュート)は責任を持って守る。


現在ドイツのカイザースラウテルンで研修中の松本氏(写真提供/松本拓也コーチ)

 ドイツと日本のGKの違いについて「ドイツでは、捨てゾーンを作る事で自分のエリアに対して強さを発揮しています。一方の日本ではゴールのすべてを守ろうとして、結果どこもしっかり守れていない可能性があるのではないか」と言及する。

 Jリーグでも韓国人を中心に外国人GKの活躍が目立っているが、JFAインストラクターの加藤好男氏、川俣則幸氏らの尽力によって日本のGKの指導理論や育成システムは非常に高いレベルにまで引き上げられてきた。その前提があるからこそ、松本氏は自信を持ってこう発言する。

「日本人GKにももちろん優れた選手、タレントはいます。Jクラブのアカデミーでは、少なくとも中高の6年もの時間があるわけで、やり方次第では必ず日本からでも世界レベルのGKは育成できます」

 実際、柏には、中村航輔を筆頭にトップチームに在籍するアカデミー出身者のみならず、先日18歳でポルトガルの強豪ベンフィカと契約を結んだ小久保玲央ブライアンを含め、まだまだ優秀なGK、タレントが在籍している。

 柏レイソルのGK部門ではトップチームの井上敬太GKコーチとも連携を図り、早くから「想定外を想定内にする」というテーマの下、試合のシチュエーションを設定したなかでGKの状況判断を磨く指導メソッドが用いられている。

 今回、松本氏がドイツに行ったことで、柏のGK部門は今までの指導メソッドに加え、「ドイツ式」の理論や指導メソッドの導入も決めている。前編で紹介したGKコーチが蹴らない指導や、今回紹介した「ゴールのすべては守れない」という前提に立った捨てゾーン、守るべき責任ゾーンの設定もそのひとつである。

 そして、「ドイツ人はスポーツ選手に限らず、幼い頃からみな自立しています。より世界基準の選手を育成すると考えた場合、『自立』という部分はもっと育まなければいけません」と松本氏は語る。

「中村航輔選手は昔から自分の意見をきちんと持っていましたし、納得しなければやろうとしない選手でした」

 傍目からは「生意気」に映ることも多かったようだが、柏では、選手としての自立、GKとしての決断力を養うべく対等な目線、姿勢でコーチが指導にあたっている。「あれをしなさい」「こうしなさい」では本当の意味で自立した選手は育たない。

 ドイツと日本では大きく生活、文化、価値観が異なるからこそ、松本氏は「ドイツの育成システムや指導理論をそっくりそのまま導入しようとしても不可能です」と話す。Jリーグの本プロジェクト担当者によると、わずか半年ではあるが、すでにカイザースラウテルンでは松本氏のきめ細かな指導がスヴェン氏を筆頭に高く評価されているという。

 日本での実績、結果を一旦脇において単身でドイツへ飛び込み、柏はもちろん、「日本全体のGKのレベルアップにつなげたい」という強い想い、「日本からも世界に通用するGKを育てることができる」という信念を持ってGK大国の知見を素早く吸収する松本拓也氏。その存在自体が今後の日本のGK育成の明るい未来と可能性を示している。


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