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名波浩から久保建英まで。左利きとプレッシングの進化の密接な関係


2019年05月21日

 コパアメリカに出場する日本代表に選出されそうだと言われる久保建英。その名前を耳にして咄嗟にでるのは17歳という若さだ。まだ高校生なのに凄いねという年齢話になりがちだが、久保を貴重な選手だと言わしめるわかりやすい話はこれ以外にもある。
 
 人間の9人に1人の割合しか存在しない左利きであることだ。代表チームの枠は23人なので、左利きの平均は1チーム約2.5人になる。しかし2018年ロシアW杯を戦った23人では本田圭佑のみだった。もし本田を外せばメンバーは右利きだらけ。彼が右利きなら選外だった可能性がある。
 
 左利きには右利きとは異なるビジョンがある。その視界には右利きとは異なる絵が見えている。そうした選手がピッチ上に存在する、しないは、とても重要な問題だ。メッシが画期的な選手に見える理由は、ただ単に巧いからだけではない。マラドーナもしかり。もし右利きだったら同じプレーをしても1、2割減に見えていた可能性がある。
 
 左利きはとにかく目立つ。なにしろ9人に1人なので、その割合に従えばピッチ上には両軍各1人しか存在しないことになる。ピッチという限られた範囲の中で、手より大きなアクションに発展する足でボールを扱えば、そこは右利きの社会であることが鮮明になる。その中にほぼ左足でしかプレーしない選手がいれば異彩を放つ。能力が高ければ高いほどその発色は鮮やかになる。
  
 右利きが支配する社会にあって左利きはそもそも貴重なのだ。得をしている。活躍は必要以上に目立つ。芸術的にさえ見える。中村俊輔、名波浩、本田圭佑、堂安律、そして久保建英。怪我で選手生命を棒に振った小倉隆史もこの中に加えたくなる。
 
 しかし、その左利きも年々様相が変わっている。自分が左利きであることを誇示するような、格闘技でいうところの左半身の体勢がきつい選手は年々減少する傾向がある。特に中盤選手にそれはあてはまる。
上記の左利きでいえば中村俊輔、名波浩。
 
 名波はいまから20年前、日本代表(トルシエ・ジャパン)が参加したコパアメリカ(パラグアイ大会)に、ゲームメーカーとして背番号10をつけて出場した。日本では技巧派MFとして鳴らした名波だが、開催国パラグアイと戦ったその第2戦では、まったく力を出せなかった。相手が高い位置から積極的にプレッシングを仕掛けてきたことと、それは深く関係する。こう言ってはなんだが、名波は、先述のとおり体勢を半身にして構え、ボールを身体の真ん中ではなく、左足のアウトサイドにセットすることが多かったため、相手に進行方向を読まれやすい、プレスを受けやすい動きをしていた。
 
 当時、日本にプレッシングは浸透していなかった。後ろを固める古典的な守りが主流を成していた。このパラグアイ戦はプレッシングの洗礼を浴びた試合と言い表せる。左利きで半身の体勢になりやすい名波には、とりわけプレッシャーが集中した。ボールを簡単に失うことはなかったが、進行方向を抑えられ、キープすることに必死になることで、次への展開が遅れた。まさに面食らい、慌てた格好だった。
 
 結果は0-4。左利きのきつい選手が、ピッチの中央で将軍然と構えることに限界を感じた試合でもあった。これ以降、そうしたプレースタイルは、古典的に見えた。
 
 だが、その役は中村俊輔に引き継がれることになった。ボールのセットの仕方は名波とほぼ同じだった。しかし欧州での実績が、ベネチアという弱小チームでプレーした1シーズン限りだった名波に対し、中村がセルティックでチャンピオンズリーガーとして活躍。大舞台に立つことができた理由は、真ん中ではなく4-2-3-1の3の右でプレーしたここと大きな関係がある。サイドは真ん中より多少、半身がきつくても、プレスの餌食にはなりにくい。


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